レギュレーションNMS(全米市場システム)

新規制の名前は、「レギュレーションNMS(全米市場システム)」と呼ばれた。2006年6月までに段階的に導入された。

これにより、私設の電子証券取引ネットワーク(ECN)を通じて売買執行した方が、投資家に有利なサービスを提供できるようになった。

NY証取とナスダックの電子証券取引ネットワーク(ECN)

米SECの新規制は、株式取引所を対象とした。具体的には、ニューヨーク証券取引所(NYSE)とナスダックなどだ。

新規制に対応するため、ニューヨーク証券取引所(NYSE)とナスダックは、電子証券取引ネットワーク(ECN)の大手を相次ぎ買収した。

市場間取引システム(ITS)が中心だった

米国の株式売買は、9つの証取をつないで売買注文を回送する市場間取引システム(ITS)が中心だった。1970年代以降は、ずっとそうだった。

技術的に古いシステムだったため、売買執行に時間がかかった。運営コストも高くついた。市場間取引システム(ITS)は、もとはといえばSECの提唱で導入した。しかし、そのSEC前委員長のドナルドソン氏でさえ「陳腐でみすぼらしい遺物」と表現するほどだった。

このため、近年はITSに代わり、電子証券取引ネットワーク(ECN)が証券取引の主役に台頭した。電子証券取引ネットワーク(ECN)は、証取や他のECNと相互に接続する。取引同士をつなぐ。

2大取引所が相次いで買収

新規制導入に対応するため、ニューヨーク証券取引所(NYSE)とナスダックは、電子証券取引ネットワーク(ECN)の大手を相次ぎ買収した。

2005年4月に新規制の導入が決まった直後に、NYSEは電子証券取引ネットワーク(ECN)のアーキペラゴの買収を発表した。追いかけるようにナスダックも同業大手インスティネットの買収を決めた。

目的、理由

アメリカの2つの大手証券取引所が、電子証券取引ネットワーク(ECN)を買収する背景した目的や理由は、以下の通りである。

  • 他証取と連結した私設ネットワークを通じ、迅速で効率的な売買執行を確保する。
  • 新規制をクリアするためには、時代遅れのITSよりもECNの方がよい。

  • 投資家がアクセスして複数の投資商品を売買

    ナスダックは、2006年初めからオプションの売買注文を他証取に回送するビジネスを始めた。オプションの注文も回送できる電子証券取引ネットワーク(ECN)の買収で、こうした事業が可能になった。

    この新しいサービスにより、投資家が取引システムにアクセスするだけで、複数の投資商品が売買できるようになった。

    ナスダックは、ライバルであるNYSEを追い上げる意図を持っていた。当時、NYSE上場銘柄の売買執行の80%はNYSE、残りの19%はナスダックが手掛けていた。

    地方の証券取引所

    アメリカの地方の証券取引所も電子証取の設立に向けて動き出した。地方証取は、NYSEとナスダックによる取引シェアの寡占状態に危機感を持った。

    大手金融機関との提携で売買注文を増やそうとした。また、資金調達をして自らECNの開設に取り組んだ。

    フィラデルフィア証取

    フィラデルフィア証取は2005年、シティグループやモルガン・スタンレーなど大手金融機関4社から出資を受けた。

    ボストン証取

    ボストン証取はシティグループやフィデリティ・インベストメンツなど4社の出資で電子取引専門の証取、ボストン・エクイティ・エクスチェンジを設立した。

    ECNとは

    電子コミュニケーション・ネットワーク(Electronic Communications Network)の略。証券取引所と同じ機能を持つが、取引所としては登録せず、コンピューターによる取引を営利目的で行う。 90年代から「隠れた市場」として取引を拡大してきたが、取引の透明性などへの懸念も指摘され、最近では取引所に近い規制が整備されてきた。(参考:有宗良治